信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

15. 透析療法

2000.3.22 高見澤 

血液透析(透析療法)とは?

腎不全や薬物中毒などによる生体内の水・電解質異常、老廃物蓄積を是正する方法。

適応は?

1急性腎不全 2慢性腎不全 3薬物中毒 4肝性昏睡 5高度の溢水 6電解質の補正-正常の腎機能の5%以下-

血液透析の基本原理は?

 血液透析は半透膜を介する水と溶質の交換より行われる。すなわち、半透膜により患者血液および正常細胞外液と組成のよく似た透析液とが分けられ、血液から透析液に老廃物および過剰の電解質が拡散により移行し、また、圧勾配を作る事により限外濾過によって貯留した老廃物や過剰な水分、塩分が除去される。

・ダイアライザー(血液、透析液との間で水や溶質の交換透析器)。
・ブラッドアクセス(シャント)。
上記の他に消耗品、浸透圧調節装置、モニター等が必要となる。

腹膜透析perioneal dialysis

(自己連続携行式腹膜透析CAPD)

腹膜をそのまま透析膜として用いる透析法。腹膜は成人で1~2Fと広く、身体の表面積と同等である。腹膜は半透膜としての性質を持つので、腹腔内に腹膜透析液を注入して腹腔内を流れている血液やリンパ液を透析するもので、原則的には血液透析と同じといえる。

しかし腹膜は血液透析に比べ編目が大きく、分子量30.00までのものが通過でき、蛋白質も一部漏出する。

(CAPDは24hr透析治療を続けるにも関わらず、患者をベッドに縛り付ける必要がなく、尿毒症毒素と考えられる中分子量物質の除去に優れている特徴がある。)

・現在全国(1997年)に透析患者は15万人おり、うち腹膜透析患者は8千人いるといわれている。

腹膜透析の利点・欠点

利点

1体液組成、量、pHが常に一定に保たれる。
2活動上制限が少ない。(小児は約60%が透析導入時に行っている。)
3食事制限が緩やかになる。
4中分子のクリアランスが良好。
5シャントが必要でない。
6抗凝固剤を必要としない。
7残血による血液の損失がない。

欠点

1腹膜炎を起こしやすい。
2蛋白喪失が多い。
3尿素およびその他の小分子物質のクリアランスが悪い。

透析患者のOPEの注意点は?

1肺水腫
2心不全
3高K血症、等の合併症が報告されている。

 予防は?

術前に充分に透析を行い、水分の貯留、高K血症、アシドーシスなどをてい是正する事が必要である。
術前検査値の目標値
CTR<50
K<3~4
Hct>6,5
体重<Dry Weightム( 0~2)Kgとし術前に2~3日連続透析を行う。

 

歯科(口腔外科)治療に際しては?

透析患者は種々の感染症に罹患している可能性が高く、HCV罹患者は15~30%みられる(HBVは1~5%)。

注意点

・ 高血圧、収縮期血圧200mmHg以上は侵襲度の高い治療は延期する。
・ 血圧変動、正常者より血圧変動を来しやすく、血圧低下が心配されるときは速やかにトレンデンベルク体位を取れるようにする。
・ 易感染性、免疫機能低下があり。特に細胞性免疫能の低下がいわれているが液性免疫も低下傾向にあり、必要に応じて抗生剤の予防投与も考慮に入れる。
・ 出血傾向、透析療法のためヘパリン等の抗凝固剤を通常使用しており、歯科治療に伴う出血が危惧されるときは透析施設に連絡し、薬剤の減量を依頼する。
・ 消化管の異常、胃粘膜の炎症が高率に 認められる潰瘍など。
・ 口腔乾燥症、唾液腺の萎縮がある。
・ 顎骨の脆弱化、長期透析患者では腎性骨症のため顎骨、歯牙にも影響がみられる。
・ 種々の合併症、DM、膠原病、心血管系疾患、悪性腫瘍などが多い。

投薬時の注意点は?

腎排泄性の薬剤は貯留し易いので使用量、頻度に留意。
透析患者は低蛋白血症を呈することが多く、薬剤が遊離型になりやすいため有効血中濃度が高くなる。
しかし、透析により排泄される物とされない物がある。(分子量、イオン化の状態のことなる物)

望ましい薬剤

・ 鎮痛剤:胃腸の刺激が少ない物。
・ 抗生剤:肝胆排泄性薬剤は通常量、腎排泄制薬剤は腎不全時を参照。
・ 止血剤:内シャントの閉塞の危険があるため、トランサミン、BiK、等は使用を避けたい。(外用止血剤、アドナ、BiCは使用可)

<参考文献>

標準透析療法     中外医学社

病気を持った患者の歯科治療 
           長崎県保険医協会編集 全国保険医団体連合会

腎透析患者の麻酔経験 日歯麻、23(4) 783-784 1995


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